CANVAS

こどもの“つくる”を応援する キャンバスマガジン

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石戸 奈々子 NANAKO ISHIDO

NPO 法人 CANVAS 理事長 / 株式会社デジタルえほん 代表取締役 / 慶応義塾大学 准教授

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。

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NPO 法人 CANVAS
デジタルえほん
クリエイティブ・キッズ – 石戸奈々子のブログ –

CANVAS がやってきたこと

CANVAS PLAYER INTERVIEW #001 は CANVAS 理事長・石戸奈々子さんへのインタビュー。前回、CANVAS の創設や活動に大きな影響を与えた MIT メディアラボの考え方や、チルドレン・ミュージアムなどの欧米のこども向けワークショップのパッケージ化やファシリテーター養成を通じて、この13年間 CANVAS が目指してきた「こどもたちへの創造的な学びの場の提供」や「地域を拠点にした創造・表現活動の活性化」などの話を伺いました。

第2話では、CANVAS の活動の軸にもなっている「10のつくる」を中心に、実際にとりくんできた、さまざまな活動について伺ってきました。
ワークショップコレクション

CANVAS が創設以来こどもたちと積み重ねてきたたくさんのワークショップや、産学官、学校、ミュージアム、地域と共にとりくんできたさまざまなワークショップ活動における「10のつくる」を、あらためてお聞かせください。

まずは、設立当初から、こどもたちのクリエイティブ活動を支える ① 場をつくる ことが大切だと考えていました。こどもの創造・表現活動は、各地でいくつもの事例が見られるものの、それらが点在していて、なかなか線として繋がっていませんでした。そこで、産官学連携で、面的な大きな活動にしていきたい、と思ったのです。各地でワークショップの活動をしている方々、児童館・科学館・博物館関係者、学校・教育関係者、大学等の研究者、そしてさまざまな分野のアーティストの方々、企業の方、官庁・自治体の方々との連携を密にし、大きな運動体としていき、こどもたちが何かを生むプラットフォームをつくりだしています。

毎年、そのような方々が一同に会する世界初! 世界最大規模! のこどもの創作イベントも開催しています。ワークショップコレクションはこどもたちの創造・表現活動の場であると同時に、ワークショップに関わるすべての人たちが出会う場でもあります。各地でばらばらになっている活動をつなげたい、そして日本中のすべてのこどもたちが創造・表現活動に参加できる環境をつくりたい! そのようなアツイ想いをもった方々で、毎年熱気に包まれます。2004年からはじめた「ワークショップコレクション」は、2013年には2日間で約10万人の親子が参加をしてくれました。

ワークショップの種類も、造形、絵画、サイエンス、映像、数、ことば、デザイン、プログラミング、身体、環境、デジタル、音楽と、さまざまなジャンルにわたり約 100 種もの多彩なプログラムが集まります。一貫したテーマは、「つくる」ということです。聞いたり探したり学んだりする活動は世の中に数多く存在しますが、ここで扱うワークショップはみな能動的につくり、見せ、コミュニケーションを取るタイプの活動。創作・コミュニケーションの祭典なのです。わたしたちは、常に「つくって、表現する」創造型の ② プログラムをつくる ことを目指してきました。クリエイターのみなさんと連携し、いまでは造形ワークショップだけでも 200 種類以上、開発・提供してきました。

200種類以上のワークショップ・プログラムを開発し、提供し、すべてのこどもたちが創造的な学びの場に参加できるようになるためには、CANVAS が目指す『パッケージ化』が重要になってくると思うのですが、どのような形でパッケージ化しているのですか?

まさに、私たちの目標は、すべてのこどもたちが、創造的な学びの場に参加できることですので、ワークショップをパッケージ化し、③ 教材をつくる ことで、誰でもが運営できるような形で提供していくことにとりくんできました。これまでに開発したワークショップ教材パッケージは、ミュージアム、保育園・幼稚園、学校、大学、児童館、学童クラブ、文化施設、 商業施設、マンションなど、述べ320施設に導入されています。

また、④ ツール をつくる ことも、より多くのこどもたちに創造的な学びの場を提供するためのパッケージ化と考えています。スマホやタブレットのアプリなど、日々の生活の中で、場所も取らず、汚れも気にせず、しかも親子でとりくめる家庭向けのツールの開発です。CANVAS が開発したアプリケーションの「tap*rapシリーズ」は、スマホやタブレット向けの新感覚のデジタルえほんとして、グッドデザイン賞を受賞するなど、たくさんの評価をいただいております。

創造的な学びのためのプログラム開発や、それをパッケージし届けるための教材・ツールをつくるにあたって、開発する「ひと」や、つくる「ひと」の能力、つかう「ひと」たちのリテラシーも求められる気がします。例えば、ワークショップを通じてこどもたちとどういう風に接したらいいのか、インターネットやアプリといった、デジタルとの向き合い方など、わからないひとたちも多いように思います。そのためにしていることはありますか?

プログラムやツールをつくるにしても、創造的な学びの場をつくるのは「ひと」です。こどもたちと一緒に、つくって、表現する場を生み出すファシリーテーター、プロデューサーなどの存在はとても重要だと思っています。わたしたちはファシリテーターを介して、こどもたちとの向き合い方やツールとの向き合い方を共有し、自らが発信することができるようになります。CANVAS では、さまざまなジャンルのワークショップやとりくみを通じて ⑤ 人材をつくる ということにも力を入れています。

 

石戸奈々子

産官学や地域との関わりもそうですが、いかに「ひと」と「場」が、こどもたちの創造的な学びを豊かにしているかがわかりますね。前回お話いただいた MITメディアラボやチルドレンズ・ミュージアムもそうですが、欧米では日本よりも、そういった学びに対する意識の高い「ひと」や「場」を受け入れるための施設や環境が整っているように思いますが、その点はいかがですか?

こどもたちが創造的な活動をする空間の設計は非常に大事です。家や文化施設など、こどものクリエイティブ活動を支える ⑥ 空間をつくる 活動にも取り組んできました。過去のワークショップで培った知識や経験を活かし、デジタル時代に向けた学びを提供するための「デジタルえほんミュージアム」や、子育てを支援するための「パークシティ大崎」など、ミュージアムやマンションの空間づくりも積極的に行ってきました。

それらの空間が、こどもたちにとっての「拠点」になることも大切です。こどもたちが定期的に創造的な学びの場に参加できるような ⑦ 拠点をつくる ことで、より日々の生活に密着した学びの機会を得ることができます。例えば CANVAS では「キッズクリエイティブ研究所」という取り組みでは、東京大学、慶応義塾大学、早稲田大学など、身近にある「教育機関」などを拠点にさまざまなワークショップを行うことで、保護者の方々への新しい「学び」に対する理解を広めています。また、こどもたちの放課後の豊かな時間と居場所の確保を目指すために、放課後施設へのプログラムの導入を積極的に行い、こどもたちが「拠点」と思える場の提供にもとりくんでいます。

そして、そのひとつひとつの拠点を、こどもたちのクリエイティビティを支えるおとなたちの手によって生み出していくことが、今度は ⑧ まちをつくる ということになるかと思います。こどもたちのクリエイティブ活動を支える地域コミュニティをつくることで、地域コミュニティを活性化していく。そして、そのまちで育まれたこどもたちのクリエイティビティが、さらにそのまちをつくり、活性化させていく。そのような「まちづくり」にもとりくんでいます。

「わたしたちおとながこどもたちに対してできること」も、新しい時代においての学びに求められている気がします。

米デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏は「2011年度にアメリカの小学校に入学したこどもたちの65%は、大学卒業時にいまは存在していない職業に就くだろう」と言いました。知識を覚えたり、事務的な処理をしたりする仕事は、コンピュータにとって変わられてしまうからです。これまではより多くの知識を得ることに評価の力点が置かれていました。詰め込み・暗記型がよしとされていました。そして、「正解の決まった問題」において迅速に解にたどりつくことが最優先とされてきました。画一的なものを大量に生産する工業社会では、そのような能力が求められてきました。しかし、情報が溢れる国際社会では、「異なる背景や多様な力を持つこどもたちがコミュニケーションを通じて協働し、新たな価値を生み出す力」が求められるのです。コンピュータには決して代替できない創造力とコミュニケーション力こそが求められていると思います。そしてこのように、いままで以上に「人間にしかできない能力」が求められるこどもたちへの学びの場は、大きく変化していかざるをえません。学びの変化なくして、新しい時代に対応することはできないと思います。

こどもたちは、これまでに誰も経験をしたことがないほどめまぐるしく変化する世界を生きています。知識はすぐに陳腐化し、今日の常識は10年後の非常識かもしれない。学校で学んだ知識だけでは対応できず、誰も答えを知らない。そんな世界です。こどもたちに変化に柔軟に対応する力を求めるのであれば、私たちおとなも変化を受け入れ、正解がない課題に立ち向かわなくてはいけないのではないかと考えています。

こどもたちに最先端の創造的な学びの場を提供したいと考えています。いまこそ「詰め込み・暗記型」の教育から、「思考や創造、表現を重視」する教育への変化をしないといけません。そのための ⑨ 環境をつくる ことに、産官学が一体となって、取り組んでいきたいと思います。

そして、それは同時に ⑩ 未来をつくる ことにもつながっていきます。アナログからデジタルへ移行してきたわたしたちおとなと違って、いまのこどもたちは生まれながらにデジタルと共存しています。もはやデジタルという表現さえないのかもしれません。おとながこどもたちに教わることさえあります。

未来の郵便局を考えよう、未来のクルマを考えよう、未来の電車を考えよう、未来の病院を考えよう。これらの企画は、こどもたちが、こどもたち同士で、こどもたちと有識者や企業が一緒になって、インターネットを通じて世界中のこどもたちとつながって、未来を想像し、おとなにメッセージを伝えることができたらという想いからつくられたワークショップ・プログラムです。いつの時代も未来を開拓していくのはこどもたちの世代。こどもたちにどのような未来を開拓してもらいたいか。それを考えることは、わたしたちおとなの未来をつくることにもつながります。

そして、CANVAS がこれまでの活動でつくってきたこの「10のつくる」は、わたしたちの活動や、実践者によるワークショップの運営だけではなく、子育てを考える軸ともなりえるのではないかと考えています。こどもたちとどう接するか。どのような活動を提供するか。どのような空間・環境を用意するか。どのような未来を開拓してもらいたいか。その視点で、家庭におけるこどもと親との関係づくりの参考にもなればよいと願っています。

こどもを持つ親だけではなく、より多くのひとたちがこどものことを考え、それにより多くを学ぶ。それがわたしたちが暮らす社会のためになるの だと気付かされました。そのために、わたしたちができることは何か。次回は、石戸さんにCANVASのこれからを伺いながら、「未来の社会」について考えていきたいと思います。お楽しみに。

つづく

第1回:いま、あらためて。
2015.07.07 公開
第2回:CANVAS がやってきたこと
2015.07.17 公開
第3回:CANVAS の「とりくみ」と「これから」
2015.09.24 公開
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石戸 奈々子 NANAKO ISHIDO

NPO 法人 CANVAS 理事長 / 株式会社デジタルえほん 代表取締役 / 慶応義塾大学 准教授

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。

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