チルドレンズ・ミュージアム紹介第1弾。(「子どもの創造力スイッチ」より転載。)
チルドレンズ・ミュージアムという施設をご存知でしょうか?日本にはあまりありませんが、アメリカには300カ所以上も存在する、触って体験する参加・体験型(ハンズオン)の子ども向けミュージアムのことです。
私が初めて出会ったチルドレンズ・ミュージアムは、ボストンチルドレンズ・ミュージアム。21 歳の時でした。ボストン茶会事件の舞台のすぐ近くの運河沿い。れんが造りの倉庫の中にボストンチルドレンズ・ミュージアムはあります。
入ってすぐに衝撃を受けました。色鮮やかな展示の中にもぐり、上によじ上り、子どもたちは楽しそうに自由にかけずり回っています。静かに! 走らないで! 触らないで! というミュージアムという言葉から想像する堅苦しいイメージとは程遠い。実際に全身で触り、五感をフル稼働させ感じる展示物。実際にやってみて、つくってみる参加型のワークショップ。好奇心の赴くままに、夢中で遊び、学んでいます。
Museum Side View-©Karin Hansen
「遊びこそ、論理的思考、コミュニケーション力、課題解決力、協働する力といった、これからの社会を生きていく上で必要なスキルの開発につながるのだ。ボストンチルドレンズ・ミュージアムは、子どもたちが21世紀型スキルを遊びながら育める場所だ」と考えられています。
1913年に設立した本施設は最古のチルドレンズ・ミュージアムではありませんが、「ハンズオン」と呼ばれるコンセプトをはじめて打ち出し、世界に広めたのはこのミュージアムです。子どもたちが自発的に触って、体験して、理解を深めるインタラクティブな展示方法を、1962年に館長に就任したマイケル・スポック氏が提唱したのです。
展示は、文化、健康、言語、アート、サイエンス、テクノロジー、数学など様々なテーマに基づいてつくられています。例えばシャボン玉の展示では、大きかったり、小さかったり。波打っていたり、渦巻いていたり。吹いたり、ひっぱったり。シャボン玉でやりたい放題できます。子どもサイズの削岩機やトラック、トンネル、坂、橋。建設を通じて街を知ることができる空間や京都西陣にある家屋もあり、子どもたちは靴を脱いで、中に入ることができます。リサイクル品がたくさん置いてあり、好きなように工作できるスタジオでは、普段は、見ることのできない中身を見ることができたり、普段は触ったり動かしたりできないものにチャレンジできたりします。
Girl in Bubbles Exhibit-©Les Veileux
空間やプログラムもさることながら、もう1つ感銘を受けたのが、本施設が持つティーチャー・リーダーシップ・センターです。ボストンチルドレンズ・ミュージアムには、年間50 万人の入館者があり、その他にも館外での教育プログラムや、後に述べる教育キットの貸し出しなどを通して入館者とは別に25 万人の利用者があるそうです(2003年調べ)。つまり、毎年全体で75 万人の人々に利用されているのです。ティーチャー・リーダーシップ・センターとはまさにその教育キットの開発と貸し出しを行っています。
展示の理解を深めるため、関連する資料をキット化し、学校へ貸し出したり、子どもたちがボストン・チルドレンズ・ミュージアムを訪れる前の事前学習、また事後学習に活用したりしているそうです。
キットには実際のコレクション、関連するビデオ、文献、写真といった資料、そしてキットの利用法などが入っています。テーマは、社会科、数学、言語、芸術、生物、科学、異文化理解と幅広い。キットが置いてある部屋を覗かせてもらうと、所狭しと多数のキットが並べてあり、どの箱を開けてみても、ワークショップで活用したくなるようなものばかりです。CANVASのパッケージは、まさにこの手法にもヒントを得て、スタートしたものです。現在は、キットは貸し出しではなく販売をしているとのことです。
©Paul Specht
ところで、この上階には、ボストンの姉妹都市、京都から移設された町家が置かれ、日本の古い町衆の文化が提示されているとともに、現在リニューアル中の東京メトロ銀座線の旧式車両が置いてあって、アニメやゲームなどと合わせて現代のポップな日本文化が展示してあります。施設内には他国の文化を体験するコーナーがたくさんありますが、日本の扱いは破格です。
最近、「クールジャパン」と日本の文化が注目されていますが、そのずいぶん前から、京都の古い庶民文化と都心のポップな現代文化を合成して、これが日本だと展示していたのは、さすがボストン、改めてその先見性にうなります。
チルドレンズ・ミュージアムは、子ども博物館というより、まさに「遊びと学びの秘密基地」です。アメリカでもヨーロッパでもどの国でも、子どもたちの好奇心を刺激し、自ら学ぶ動機付けができるための仕掛けに満ちあふれています。おもちゃ箱のような色彩豊かなオープンな空間に、子ども心をくすぐり五感で体験できる展示、参加型の多彩で創造的なワークショップ、展示品ではなく子どもたちが主役の場、ファシリテーターとの密なコミュニケーション、学校・企業・市民ボランティアなど地域との深い連携。ここにこそ新しい学びのヒントがたくさん隠されているのではないか?チルドレンズ・ミュージアムに魅了され、新しい土地を訪れる度に訪問するのがライフワークになっています。
©Robert Benson