— 世界で活躍する未来のデジタルクリエイターに
前回までのレポートで紹介された、8つのできることの1つ『最先端のデジタル技術による未来の学び体験』。そして、それを『できる』化するためのスペシャルプログラムは、前回紹介した Making & Coding エリア以外にももう1つ用意されております。それが『国際デジタルえほんフェア2015』です。
『デジタルえほん』とは、タブレット、電子書籍リーダー、電子黒板・サイネージ、スマートフォン、テレビ、パソコンなどにおける子ども向けデジタル表現の総称です。デジタルでは、ただ絵と言葉で構成されたえほんの電子化ではなく、さわって遊びながら学べるインタラクティブな『えほん』が展開されます。
ワークショップコレクション 11 では、世界中のデジタルえほんが大集結する体験スペースが用意されていて、こどもたちはさまざまなデジタルえほんを通じて、いままでに体験したことのない楽しさや、見たことのない世界を感じることができます。世界中の作品というと言葉の壁を思い浮かべてしまいますが、デジタルえほんにおいては、あまり問題ではないような気がしました。かわいらしい絵とアニメーション。そして、画面に触れば動く、物語が進む、景色が変わってゆくというシンプルなプロセスに必要なのは、共通言語での説明というよりも、もっと感覚的な感動や喜びの共有だと感じます。
むしろ、この言語の壁がないデジタルコンテンツこそ、未知なる可能性を秘めているようにも感じます。デジタルえほんを通じて世界中とコミュニケーションできてしまう。さらには、自分の描いたデジタルえほんが海を渡って世界中のこどもたちに楽しんでもらえる、なんてことが起こりうるかもしれません。
そのきっかけづくりとも言えるワークショップが、デジタルえほんフロアで開催されていました。デジタルえほん作家を目指す女子美術大学の学生たちによるデジタルえほんづくりのワークショップです。ここでは誰でも簡単にデジタルえほんが作れる魔法のソフト『FlyingCat』を使ってこどもたちがデジタルえほんづくりにチャレンジしていました。世界をまたにかけて活躍するデジタルクリエイターが、このワークショップを通じて近い将来誕生してしまうかもしれない。想像するだけでワクワクします。
そして会期中には、世界中から集まった『デジタルえほん』の2015年の大賞を決めるアワードの表彰式(受賞作品の発表会)が開催されました。今回、見事大賞を受賞した作品はこちら。
ダンボッコ・キッチンはダンボール製のフライパン・なべ・まないたのキットにスマホをはめ込み、 お料理体験ができるスマートトイです。実際にフライパンやなべを振ったりすれば、スマホの中で料理が完成されていきます。詳細はコチラ。
ここでも前回のレポートで述べたような、デジタルとアナログの融合が、上手に行われており、審査員からも、デジタルだけに頼らないアナログでのものづくり・発想は、デジタルえほんの新しさだという講評もありました。ワークショップコレクションでダンボッコ・キッチンで遊ぶこどもたちも、とても楽しそう。ほかにも甲乙つけがたい素敵なデジタルえほんがたくさん。その他の受賞作品もコチラから見ることができます。
次に、今回のワークショップコレクションでもひときわ自由度が高く目立っていたアート系のスペシャルプログラムをご紹介します。
まず、ワークショップコレクションのメイン会場に訪れた親子は、入り口に描かれた巨大な壁画に驚かされます。ビルのエントランスの2階まで吹き抜けになった高い壁いっぱいに絵が描かれた大きな壁は、今回のワークショップコレクションのスペシャルプログラムの1つ『 #BCTION フリーウォール 』です。こどもたちがからだいっぱい使って、壁に自由に絵を描くことができるこのワークショップは、2014年、約80組のアーティストの作品で解体ビルの壁、床、天井を埋め尽くした話題のアートイベント「#BCTION」とワークショップコレクションとのコラボレーション企画。
普段、家庭や学校では「ダメ」とされている壁へのペイントは、こどもたちの自由な感性を刺激します。まるでこどもひとりひとりが小さな巨匠。ゲージュツカにでもなったかのよう。自由すぎるほど自由な空間に、とまどいを隠せないパパやママも、普段、家ではなかなか見ることができないこどもたちの新しい一面を見て、とても嬉しそうです。
同じく壁に絵を描くワークショップでも、ツールが変わると、表現が変わります。
スプレーとロボットを使って壁に絵を描くスペシャルプログラム『ロボットのお絵描き教室』は、ロボットとこどもたちがコラボレーションすることで絵を完成させていくちょっと不思議なワークショップです。このロボットの正体『SENSELESS DRAWING BOT』(第15回文化庁メディア芸術祭受賞作品)は、二重振り子の動きを利用し、スプレーを用いて抽象的なラインを描画するドローイングマシンで、電動スケートボードが左右に運動することによって、振り子の振れ幅を増幅させ、さまざまな線をスプレーで描き出すことができます。
いままで見たことないロボットが描き出す鮮やかで不思議な曲線をヒントに、今度はこどもたちがスプレーを持って自由に壁に絵を描いていくという、ダイナミックなワークショップ。ロボットが動きだす瞬間、こどももおとなも、そこにいる全員が「おおおお」という驚きの声をあげ、テクノロジーとアートの融合に圧倒されます。見て驚いて、描いて楽しい体験が、こどもたちのこころに刻む感動ははかりしれません。
そして、次に紹介するのはなんと『スタンプ』。『はんこ』などでおなじみのシヤチハタの協力で開催されたウォールペイントのワークショップのツールは『エポンテ』というクリエイティブ・イマジネーション・トイ。会場に用意された3種類のスタンプは、スタンプというよりもブロック? パズル? ボール? とにかく触って不思議、積み重ねて不思議、捺して不思議なお絵描きツールです。こどもたちは、部屋に入るなり、説明不要!で、すでに壁に描かれた森のイラストをヒントに、ポンッポンッとスタンプで絵を描いていきます。筆やスプレーと違って、手に取って、捺すだけで模様ができるので、『森』というテーマが与えられていても、自由な発想で表現できるのが特徴。絵の苦手なこどもたちも気軽に楽しく、アーティスト気分でお絵描きを楽しんでいるようでした。
このような壁全体を使ったスペシャルプログラムも、取り壊しの決まったこのビルだからこそできるワークショップと思われがちですが、例えばいつもより大きな紙を用意して、家でこどもにお絵かきをさせてみるとか、簡単に消せる画材を用意して大きな壁や窓に描かせてみる。ちょっとしたことで、こどもたちの表現力は楽しみながら伸びていきます。
『未来』をつくるスペシャルプログラムをもう1つ紹介します。
渋谷という『街』には、毎日のようにさまざまな文化が集まります。アートはもちろん、ファッション、音楽、本、映画、食など、あげていくとキリがないほど。そんな文化の発信基地『 渋谷(シブヤ) 』の未来を考えるべく、このスペシャルプログラムでは、未来の渋谷を歩く個性的なひとたちを描く『ソウゾウ』のワークショップが開催されました。題して、『未来のシブヤをえがこう〜シブヤミライ人を考えよう〜』です。
講師としてお招きしたのは、NHK Eテレの人気工作番組「ノージーのひらめき工房」のアートディレクションも担当しているクリエイティブユニット tupera tupera のおふたりです(29日のみの限定ゲスト)。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、舞台美術、アニメーション、雑貨など、 様々な分野で幅広く活動している tupera tupera の監修のもと、こどもたちは自由な発想とアイデア、道具でシブヤミライ人をつくりだしていきます。
渋谷から土星に出勤するサラリーマン。ロケットランドセルで登校する小学生。ハチ公ロボで待ち合わせ? 未来の渋谷にあつまるひとたち =「シブヤミライ人」を考えてみよう! というコンセプトは、シブヤで開催される今回のワークショップコレクションならではのスペシャルプログラムと言えます。
そして、シブヤミライ人はシールのように貼ることができるカッティングシートという部材を使って作られているので、「シブヤミライ人」の集まる「未来のシブヤ」は、1つの大きな作品として旧東急プラザ渋谷を含む再開発工事現場の仮囲いに張り出されました。これもシブヤで行なわれたワークショップならではの展開と言えます。ミライのシブヤをつくるための再開発の現場で、たくさんの現代のシブヤ人の目に触れられる、そしてそこからまた新しい表現の可能性が広がっていく。そんな素敵なワークショップになりました。
このほかにもスペシャルワークショップは、漫画家の安野モヨコさんによる人気作品『オチビサン』の複製原画の展示や、昨年のワークショップコレクションでも人気を博した未来のシブヤ発見ツアー「親子で工事現場探検&シブヤのミライを学ぶ」、そして未来のアイデアスポーツ、企業が一体となって開催するワークショップなどなど、とにかく目白押しです。
まるでワークショップの数だけ『ソウゾウリョク』と『可能性』を生み出してるかのよう。150以上も集結したさまざまなジャンルのワークショップは、アイデアやツールを変えながらも、こどもたちの未来を創っていきます。
次回、最終話では、ワークショップコレクションの様子を数々の写真(瞬間)と一緒に振り返りながら、私たち全員の次のアクションにつないでいきたいと思います。