第3話では、前回に引き続きプリモトイズのファウンダー兼CEOのフィリッポ・ヤコブ氏とCANVAS理事長の石戸によるトークイベントの内容をお届けいたします。後半は、プログラミング教育の現状やこれからについても話が及びました。
イギリスでは、既に初等教育からプログラミング教育が必修化されています。社会的な反応はいかがですか?日本では2020年から必修化の方針が示されて以降、賛否両論様々な議論がなされているところです。
イギリス政府は2013年にプログラミング教育の必修化を実施しました。アメリカやフランスでも同様の流れで進んでいます。韓国も来年から必修化します。一般的な話をしますと、この動きは多くの人を不安にさせているようです。私たちは、子どもたちにとても重要な技術を教えるように言われているのですが、実際そのやり方を知っている人は1%しかいないのです。自分たちが知らないことをどうしたら子どもたちに教えられるのか?私たちは、とてもシンプルでダイレクトなツールを提供することで、この問題を根本から解決したかったのです。家庭や教室で親や先生が子どもたちと一緒につかえるようなものを提案したかったのです。世界共通のゴールは、コンピューターのもつクリエイティブな力を理解する次世代の子どもたちを育てることだと思います。キュベットはその基礎作りをしますが、小さいうちからコンピューターの持つ力に興味を持つ子どもたちが実際に出てきていることを感じます。世界を1つにし、人類が直面する問題に立ち向かうためには問題解決力と想像力を持ち合わせた世代が必要です。プログラミングを大人にとって親しみやすいものとすることができれば、子どもたちが興味を持つ機会は増えることになると思います。
日本の中では、先生方がどのようにプログラミング教育に対応するかという点が課題としてよく挙がります。イギリスでは、どのように対応したのでしょうか?
学校側もかなり力を投じていましたので、特に当初は外部のコンサルタントや専門家の助けを多く借りながら、学校教育への導入が進められました。初めのリアクションとしてGoogleでプログラミングのことを調べてみても、それは具体的な助けにはならないですからね。
キュベットは先生方にとっても、直感的に理解しやすいツールですよね。イギリスでは実際に学校に導入されているということですが、どのように使われてい るのか教えてもらえますか?
まず先生たちへのアプローチとして、キュベットは子どもたちにとっても大人にとっても非常に扱いやすく、わかりやすく、とてもシンプルなものだから、パニックになったり、教え方について心配する必要はない、ということを伝えました。現在既に、アメリカ、イギリス、イタリア、フランス、ドイツなど世界各地数千の場所で取り入れられています。
先生が好きな科目で自由に使うことができるようなつくりになっていますので、たとえば、地理や歴史や算数の授業や、物語づくりなど、既に学校の中にある授業の中で取り入れることができるという点が大きなポイントです。
それをお聞きしてますます日本での展開が楽しみになりました。日本では、新しくプログラミングという科目ができるわけではなく、これまでの教科の中にプログラミングが導入されます。実際の授業の例などをもう少し具体的にお聞きしてもいいですか?
ではモンテッソーリの事例をお話ししましょう。モンテッソーリ教育の大原則として、セルフダイレクティングラーニング、と呼ばれるものがあります。教育的な環境の中で、子どもたちが自分で、何を使い何を学びたいのかを選ぶ、という考え方です。
これはロンドンのモンテッソーリの教育方針に基づくスクールでの実例ですが、3~6名のグループに分かれた子どもたちが、グループごとに決めたストーリーに沿ってキュベットを動かし冒険をさせる、というような遊びを展開します。子どもたちはゆっくりと長い連続的な動きをキュベットにさせることを楽しみます。最も自由なタイプの遊び方ですね。
2つ目の事例は、算数の授業です。ファンクションブロックを使うと、4つのブロックの組み合わせでいろいろなパターンを作ることができるので、それで足し算や、乗数の考え方を学ぶことができます。 最後に紹介するのは、イギリスの宇宙飛行士が、国際宇宙ステーションに行ったときのできごとに基づいたワークです。宇宙飛行士たちが話してくれる火星探索の実話を聞いて、子どもたちがプレイセットの宇宙マップで火星探索ミッションをシミュレートするのです。子どもたちがプレイするストーリーは非常にシンプルですが、地球の話や惑星の話が語られる中で同時に複雑な宇宙のことについても学ぶのです。
キュベットを使うことはコーディングも算数もストーリーテリングもゲームもすべて含んでいて、クロスカリキュラム、すなわち全科目横断的なのです。
CANVASもプログラミング『を』学ぶでなく、プログラミング『で』学ぶ、ということを大事にしています。プログラミングをツールとし、教科科目の理解を深め、実践的な活用能力を身に着けることができたらいいなと思います。今後、キュベットを使った授業案などを共有したりする予定もあるのですか?
先生方には、キュベットのプレイセットを使ってレッスンを提供しています。様々なリソースを長期的に活用してもらえるように、現在32のレッスンを用意しています。まもなく50に増える予定ですよ。リソースセンターも設けていて、ホームページでアクティビティ集が掲載されています。手作りのものと組み合わせたアートやクラフトの要素が入った実例も載っています。
イギリスには、プログラミングを教えるツールが他にもいろいろあるのですか?
いい商品はたくさんありますが、私たちが対象としているような幼児用のものはありません。デジタル画面を使わず、言語も必要ないものは私たちの製品だけです。コンピューターサインエンスの考え方は体験を通して学ぶと、理解が深まります。私たちは自然の生き物です。私たちは木にぶら下がりながら進化してきました。私たちの手で複雑な構造のものを作り、私たちの周りの物理的な世界への理解を深めるために。私たちの生存に不都合なものを改善しながら。考えてみると、昔からあまり変わっていないかもしれませんね。私たちはいまだに電車のつり革にぶらさがっていますし、いかにして生き残るかを考えることよりも、もっとクリエイティブなことに時間を使えるように、私たちを取り巻く環境をよりよくしよう、使いやすくしようと日々考えてますね。
未来の世界では、椅子、電化製品、歩道、エレベーター、電車などあらゆるものにコンピューティングが組み込まれているでしょう。この未来像は希望を与えるものでもあり、同時に暗い状況でもあります。私たちの理解を超える世界、もしくはこれまでにないクリエイティブ・コントロールがきかない世界です。
日本では学校外の取り組みも盛り上がりをみせています。早い段階から子どもたちにプログラミングを学ばせたい、という教育熱心な保護者の方々が多くいるということもありますが、全てを学校で行うということにも限界がある中で、学校と学外の取り組みをうまく結び付け、学外の取り組みを応援するという動きも出ています。イギリスでは学校外のプログラミング教育はどのような状況ですか?
イギリスでも学校の動きは非常にゆっくりですね。保護者は、プログラミング教育を非常に重視しており、子どもたちにもっと体験させてあげたい、という想いがありますが、学校側の動きはゆっくりですので、学校外のプログラミング教育が非常に盛んです。Code club、Coder dojo、Code academyといったものが本当に多数出現していて、非常に大きなマーケットとなっています。保護者はよりスピーディな決定を求め、学校はなかなか動かない。保護者はそれを待っていられない。では早く動こう、という風になるわけです。学校はそれを追うような形で動いていますが、学校外の取り組みが非常に大きくなってる現状を、わたしは素晴らしいことだと思っています。
キュベットに対して日本マーケットのどんな反応が予想されますか?
日本はとても面白いケースです。キュベットは問題解決力のための製品なので、多くの人に受け入れられると思います。さらに、私たちが創ったのは単なる玩具ではなく「プレイウェア」ですので、きっと興味を持っていただけると思っています。素晴らしいストーリー、ユニークで象徴的なキャラクター、そして非常に高品質な製品の効果を測定できる学習経験と組み合わせています。日本は任天堂やソニーのように、ものづくり、輸出の伝統があり、新しく面白いものに反応してきました。幼い頃からプログラミングの学習が重要であるということを完全に納得していただくためには、もう少し時間がかかるかもしれませんが、一度納得していただけたら、世界中のお客様方と同様、日本のお客様にも満足していただけると思います。
誰もが手にとりやすい知育玩具として、既に世界各国の教育現場で多くの子どもたちや教育者の方々から親しまれているキュベット。今後日本でも目にする機会が増えていくことと思います。5月に開催予定のこちらのイベントでは、キュベットのワークショップを体験頂くことが出来ます!ぜひ遊びに来てくださいね。