CANVAS

こどもの“つくる”を応援する キャンバスマガジン

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石戸 奈々子 NANAKO ISHIDO

NPO 法人 CANVAS 理事長 / 株式会社デジタルえほん 代表取締役 / 慶応義塾大学 准教授

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。

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クリエイティブ・キッズ – 石戸奈々子のブログ –

CANVAS の「とりくみ」と「これから」

CANVAS PLAYER INTERVIEW #001はCANVAS 理事長・石戸奈々子さんへのインタビュー。第2話では CANVAS の13年を振り返る上で欠かせない「10のつくる」を紹介させていただきました。そして「10のつくる」を通じて、こどもたちの未来を考えることが、わたしたちおとなの未来をつくることにもつながるということ、そして、こどもを持つ親だけが、こどものことを考えるのではなく、より多くのひとたちが「こどもたちの学び」を考えることが、わたしたちが暮らす社会のためになるのだと気付かされました。

第3話では、そんなこどもたちと「未来をつくる」ためのCANVAS の「とりくみ」を中心に、CANVAS のこれからについて伺います。
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全国各地で毎週のように開催されるさまざまなジャンルのワークショッププログラムのパッケージ化や、産官学と一体となってとりくむ地域でのプロジェクトや環境・拠点づくりへの想いは、年に一度 CANVAS が主催となって開催される『ワークショップコレクション』に集約されるように思います。今年も8月に開催された『ワークショップコレクション』についてと、これからのビジョンについてお聞かせください。

ワークショップコレクションは、全国にあるこどもたち向けのワークショップを一同に集めた博覧会イベントで、毎年1回開催しています。前回は全国から約150のワークショップが一同に介し、世界最大級の創作イベントとなりました。ワークショップの分野は、造形、絵画、映像、サイエンス、電子工作、音楽、身体表現、映像、環境・自然などさまざまですが、ワークショップコレクションの一貫したテーマは、「作る」ということです。聞いたり探したり学んだりする活動は世の中に数多く存在しますが、ここで扱うワークショップはすべて能動的に作り、見せ、コミュニケーションを取るタイプの活動です。創作・コミュニケーションの祭典なのです。今年はもうすぐ取り壊される予定のビルを2棟まるごと貸し切って、8月29日、30日と2日間に分けて開催しました。ビルの階段をあがっていくごとにさまざまなワークショップ・プログラムがたくさん用意されていて、ロケーション、シチュエーションともに、こどもだけではなく、おとなもクリエイティビティを刺激されるようなワクワクドキドキがたくさん詰まっていて、結果的に、今後につながるとてもよいコミュニケーションが行われた気がします。

そもそもワークショップコレクションを開催しようと思ったきっかけは?

デジタル時代の新しい学びをファッションショーのようにポップに伝えられないか? それがワークショップコレクションのはじまりでした。2004年1月の第1回開催時の参加者は500人でしたが、第8回には来場者数は2日間で10万人に達しました。こどもの創造力や表現力を育みたいと願う保護者が増え、活動に対する需要が年々急激に高まっていることを実感しています。

「みんなでつくる」というのもワークショップコレクションの大切なテーマです。学校の先生、大学関係者、ミュージアム関係者、アーティスト、各種研究者・技術者、企業の方々、行政関係者、学生、おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃん。そして主役のこどもたち。出展者も来場者も、みんなで一つの空間を作り上げています。ワークショップコレクションはこどもたちの創造・表現活動の場であると同時に、ワークショップに関わるすべての人たちが出会う場でもあるのです。

各地でばらばらになっている活動をつなげたい、そして日本中のすべてのこどもたちが創造・表現活動に参加できる環境を作りたい! そのようなアツイ想いをもった方々で、従来のアナログの表現手段と最先端のデジタル技術を駆使したこの「遊びの場」は毎年熱気に包まれています。

昨年からは、ワークショップコレクションの開催と合わせて、こどもたちの「つくる」を応援する年に1度のお祭り「KIDS DAY」も、CANVAS の新たなとりくみとしてスタートしました。「日本中のこどもたち」に創造的な学びの場を届けたい!という想いからはじめたワークショップコレクションに対して、全国の大人のみなさまにワークショップコレクションにおこし頂き、ぜひそれぞれ自分の地域に持ち帰って、各地域で展開して頂きたいという趣旨ではじめました。東京だけを拠点に普及を目指しても10万人が限界。であれば、ワークショップコレクションにあわせて、全国で同時にワークショップを開催することで、日本中で盛り上げていけないだろうか? と考えたのです。今年のワークショップコレクションからは WEB ページを立ち上げ、本格的に  KIDS DAY という企画を具体化させました。年に1度の KIDS DAY の時は、日本中をこどもたちのキャンバスにしてしまおう! という試みです。北海道から沖縄まで約200ものワークショップが開催されました。今後の CANVAS は、この KIDS DAY を通じて、各地域でこども向けの創作活動を支援していきたいと思っています。

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さらに、昨年からは KIDS DAY を通じた「全国への広がり」以外に、「国際性」と「先駆性」をより意識するようになりました。

まず「国際性」ということですが、こどもたちには、国境を超えて、異なる背景や多様な力を持つ人たちとの協働を通じて、新たな価値を生み出していって欲しいと願っています。そのための環境をつくりたい、というのが私たちの願いです。だからこそワークショップコレクションの国際化にもチャレンジしていきたいと考えています。同時に、ワークショップコレクションが、世界中の学びが集まり、世界に対して新しい学びを発信する場に育って欲しいと願っています。これまでもワークショップコレクションには、イタリアや韓国など他国からの出展もありました。また、ワークショップコレクション内で開催している『国際デジタルえほんフェア』には、世界40カ国からの参加がありました。海外の方々にもワークショップコレクションの存在を認知して頂けるように、引き続き海外発信につとめたいと思っています。

「先端性」ということに関していうと、ワークショップコレクション内でも年々増えており、世界的にも盛り上がりを見せている『デジタル』でのものづくりのコーナーの充実を図りました。プログラミング学習、3Dプリンター、ロボット、ドローンなど新しいテクノロジーを活用した学びのブースを用意しました。改めて「世界最大かつ最高のこどもたちの創造的な学びに関する最先端が集結する場」に育てていきたいと思っています。

今年はたしかにたくさんのデジタル創作コーナーがあったような印象があります。国際デジタルえほんフェアでもたくさんの小さなこどもたちが夢中になっていろいろなデジタルえほんを体験していましたね。

そうですね。2010年くらいから、テレビの画面をタップする子、スマートフォンではないのに画面をスワイプする子、紙の絵本をピンチアウトしようとする小さな子を見かけるようになりました。そんな状況を踏まえ、2011年から「デジタルえほん」づくりを始めました。私たちは、「デジタルえほん」を、タブレット、電子書籍リーダー、電子黒板・サイネージ、スマートフォン、テレビ、パソコンなどこども向けデジタル表現の総称と定義しています。そして、世界中のこどもたちに愛されるデジタルえほんが、もっとたくさん生まれてほしいという願いから「デジタルえほんアワード」を立ち上げました。デジタルは、こどもたちが豊かな想像力で世の中を思い描き、それを現実につくり出す、その力を与えてくれます。これからの時代を生きるこどもたちのために、「想像する心と創造する力」を育むような作品を届けるための環境が必要と考えたからです。そして翌年には「国際デジタルえほんフェア」をスタートさせました。名前の通り、「デジタルえほん」を広く世界から集め展示する、世界ではじめてのデジタルブックフェアです。今年は世界45カ国から作品が集結しました。これからますます発展する世界中のデジタルえほんの魅力と可能性をこどもたちに体験してほしいと思っています。

デジタルはなにかと批判を受けやすいのですが、いまのこどもたちは、ねんどや紙やクレヨンがあるのと同じように、生まれながらにタブレットやスマートフォンが存在していて、パソコンがあってネットワークにつながっているという時代を生きています。そして、それらは道具、ツールにすぎません。どうやって使うのかが大事なのです。

私は、スマートフォンやタブレットを

・親子のコミュニケーションのツールとして使うこと
・創造・表現ツールとして使うこと
・親子で使い方のルールを守りながら使うこと
・外遊び、お絵かき、ねんど遊びなどさまざまな遊び・学びとのバランスをとりながら使うことを意識して使う

のがよいと思っています。良質な作品をこどもたちに届けるとともに、タブレットやスマートフォンの使いかたについても伝えていきたいと思っています。

もう少し大きな学年のこどもたちはプログラミングや3Dプリンターに夢中になっていたのが印象的でした。ワークショップコレクションでも行列ができてましたね。

そうですね。CANVAS は設立当初から、プログラミングのワークショップも提供してきましたが、造形、サイエンス、音楽など他の分野の「つくる」ワークショップと比較して人気がありませんでした。しかし、ここに来て、プログラミング教育ブームの到来を感じます。プログラミングワークショップの開催依頼、こどもたちの申し込みも増えていますし、取材も多いです。これは、技術やツールはこれまでもあったものの、ユーザーとの距離がこれまでは遠かったのだと思います。しかし、タブレットやスマートフォンの普及により、保護者やこどもたちにとってコンピュータを使う感覚が日常的なものになり、その重要性が認識されるようになったことが理由ではないかと考えています。

そのような状況を踏まえ、CANVAS は、昨年、Google の後援により、プログラミング学習を本格的に全国に広げるプロジェクト「PEG(Programming education gathering)」をスタートさせました。1年間で2.5万人のこどもたちにプログラミング学習を届け、また1000人の先生方に研修を行ってきました。そして、なによりも大事にしているのは「gathering」ということです。ワークショップコレクションと同じく、学校も、ミュージアムも、NPOも、家庭も、地域も、企業も、自治体も、みんなで集まり、力をあわせ、プログラミング学習の輪を広げていく運動をつくっていきたいと思っています。そのためにも、ワークショップや授業の開催、指導者研修などを通じたワークショップ・授業の開催支援だけではなく、ウェブサイトを通じて、全国から寄せられたアイデアや授業例を共有し、プログラミング学習に関する情報を集約するとともに全国に発信する活動を行っています。活動の輪は広がり、愛知 gathering、横須賀 gathering、北九州 gathering、郡山 gathering、宮城 gathering、沖縄 gatheringなど全国で14地域で gathering 活動が始まっています。パートナーの学校・団体も100を超えています。

私たちが伝えたいのは、プログラミング「を」学ぶことではなく、プログラミング「で」学ぶこと。プログラミングを通じて、日本のこどもたちに、新しい価値を創造する力を養ってほしいと願っています。

Google をはじめ、NEC、富士通など、デジタルを用いたワークショップの粋を飛び越えた『企業』とのコラボレーションプログラムは、今後の CANVAS の活動や、こどもたちが社会に出た時の可能性を広げる印象を受けます。

CANVAS はこども向けのワークショップを行うだけの団体と思われがちですが、ワークショップを通じて培った経験や実績を踏まえ、こどもたちの発想を活かした教材づくり、プロダクトづくり、空間づくり、まちづくりなどにも取り組んでいます。

この先も、自分たちが楽しみながら活動を進めたいと思っています。「遊びと学びのヒミツ基地」と掲げているように、遊びと学びは、本来一体のものです。新しいことを発見すると、こどもたちの顔がぱぁっと明るくなります。こどもたちはどこでも遊び、どこでも学びます。家でも公園でも空き地でも道路でも。押し入れでもキッチンでも物置でも。全ての空間がこどもたちにとってはラボなのです。ここを押すとどうなるのだろう? これをつなげるとどうなるのだろう? たくさんの実験をして、たくさんの試行錯誤をして、たくさんのことを学んでいるのです。ところが、いつの間にか、学びと遊びが分かれ、学びには苦痛が伴い、楽しみが失われていきました。人間の学びを本来の楽しい知的探求の活動として取り戻したい、そう願っています。

こどもたちは、何かに対して夢中にとりくむ時、たくさんのことを吸収し、たくさんのことを学んでいます。「好きこそものの上手なれ。」と言いますが、楽しい!と思う心こそが学びの原動力なのです。そして、大人が楽しんでないのに、こどもが楽しめるわけないですよね。今までの13年間、私たち自身もずっと楽しんできました。だから、これからもずっと、わたしたち大人が楽しみながら学びの場を作るという実践を続けられるといいなと思います。

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これからの CANVAS の活動において、チャンレジしてみたいことはありますか?

こどもたちの創造力を自己満足で終わらせてしまうのではなく、社会に還元していきたいと考えています。いつの時代も「夢」が未来をつくってきたと思うんです。車も飛行機もロケットも携帯電話も。空を飛びたい、月に立ちたい、遠くの人と話をしたい、といったこどもの頃の夢を追い続けた人が未来をつくり、人々に希望を与えてきました。

こどもたちは自由で無邪気な夢想家でありますが、同時に、新しいテクノロジーの提案や、環境問題や高齢化社会などに配慮した提案もしてくれる直感力に満ちた課題の設計者の側面も見せてくれます。こどもたちの発想には、たくさんのヒントが溢れているんです。こどもたちと一緒に未来を描き、そして実現していく、そんなことにチャレンジしていきたいです。

産官学が一体となっておとなたちが築いてゆく、こどもたちの自由な創造・表現力のための場づくり。そのために、いかにおとなたちがコミュニケーションをはかってゆくかがこれからの課題でもあります。

次回は、13年目にして CANVAS の新たな拠点として生ま変わった新事務所や、より多くのひとへこどもたちの創造・表現の可能性を伝えるためにリニューアルされた CANVAS のロゴや WEB について、 お伺いします。

つづく

第1回:いま、あらためて。
2015.07.07 公開
第2回:CANVAS がやってきたこと
2015.07.17 公開
第3回:CANVAS の「とりくみ」と「これから」
2015.09.24 公開
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石戸 奈々子 NANAKO ISHIDO

NPO 法人 CANVAS 理事長 / 株式会社デジタルえほん 代表取締役 / 慶応義塾大学 准教授

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。

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