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CANVAS REPORT #03 STEM/STEAM教育とは Vol.6 日本の今

日本もIT人材不足の課題が掲げられて久しい。経済産業省は先端的な情報技術を担う人材が2030年に55万人不足する恐れがあるとの調査結果を示した(経済産業省,2019)。

2019年3月29日に政府はAI戦略を発表した。社会の大きな変革期に際し、その変革の大きなきかっけとなっているAI関連の人材の育成・確保が緊急的課題であるとし、生涯学習時代を念頭に置き初等中等教育、高等教育、リカレント教育まで幅広く数理・データサイエンス・AI教育を推進する方針が示されている。理科・数学の力で社会課題を解決する思考の早い段階からの経験の重要性を説き、STEAM教育などの新たな手法の導入、実社会の課題解決的な学習を教科横断的に行うことが不可欠であるとしている。

そして、全ての高校卒業生の理数・データサイエンス・AIに関する基礎的なリテラシーの習得、約25万人/年のデータサイエンス・AIを応用できる人材の育成、約2,000人/年のデータサイエンス・AIを駆使してイノベーションを創出しできる人材の発掘・育成等の具体的な目標を掲げている。

高等教育以降におけるSTEM人材育成に関しては課題が残るものの、OECDが3年に1回実施している学習到達度調査PISAの結果をみると、日本は調査を開始した2000年から常にトップクラスを維持しており、2015年においてはOECD加盟国において科学的リテラシー及び数学的リテラシーで1位であった。初等教育レベルでの理科教育は国際的にも上位に位置している。その一方で、科学に対する態度には課題があるといわざるを得ない。「科学の楽しさ」、「理科学習者としての自己効力感」はOECD平均を大きく下回っている。また、30 歳時に科学関連の職業に就くことを期待している生徒の割合は,OECD平均で25%に対して日本は18%となっている。

これらから、初等中等教育段階における日本の理数教育に関しては一定の成果を挙げているが、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べたり、実験結果を分析して解釈・ 考察し説明したりすること、また、学ぶことと自分の人生や社会とのつながりを実感しながら、自らの能力を引き出し、学習したことを活用して、生活や社会の中で出会う課題の解決に主体的に生かしていくことに関しては課題が残ると指摘されている(文部科学省,2016)。

生徒が、体系的に学習した知識に基づき、それらを横断的に活用して思考する力を育み、科学技術に関心を示し、社会・世界との関わりの中で主体的に学習する態度を育むためにも、一方的な知識伝達の学習方法からの脱却が求められている。

2020年から順次改訂される小学校・中学校・高等学校における学習指導要領においては育成すべき資質・能力として、知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性の3つの柱を示し、それら資質・能力を育むため、「何を学ぶか」のみならず、「どのように学ぶか」を重視している。学ぶことに興味や関心を抱き主体的に学習する。子ども同士、教職員や地域の方々等と対話しながら協働で学ぶ。教科等で学習した知識を相互に関連付けながら、考えを深め、探求し、課題を解決し、新たな価値を創造する。「主体的・対話的で深い学び」を通じて生涯に渡り学び続ける力を育む。

新学習指導要領で示されている「総合的な探求の時間」や「理数探求」など、探究的な学びはその代表例と言えるであろう。これらは、生徒が、理数的な知識・技能を身に着け、主体的に課題を設定・探求し、社会との関わりの中で、教科横断的な視点から課題を解決する力や創造力を育む学びである(文部科学省,2017)。その方向はSTEM教育が目指す教育と合致している。

文部科学省でもSTEM教育を筆頭に世界的に理数教育の充実や創造性の涵養が重視されており、それは我が国における探究的な学習の重視と方向性を同じくするものであると指摘している(文部科学省,2016)。また、「Soceiety5.0に向けた人材育成」においては「STEAM教育」の重要性をうたっている。

さらには、先進的な理数系教育を実践する高校を支援するスーパーサイエンスハイスクールや、科学的探究能力を有する傑出した国際的科学技術人材の育成を行う大学を支援する「グローバルサイエンスキャンパス」、国際科学オリンピック支援や、科学の甲子園の開催等、STEM人材の育成に力を注いでいる。

文部科学省、総務省、経済産業省の3省を挙げての小学校段階からのプログラミング教育の推進、経済産業省の「未来の教室」事業も日本におけるSTEM教育の大きな推進力となるであろう。

社会教育分野においてもSTEM教育の盛り上がりを見せている。プログラミング教育必修化を前に、全国にプログラミング教室が広がり、プログラミング教育市場は2024年に257億円まで拡大するという(船井総研,2019)。最近ではプログラミング教育ではなくSTEM教育を標榜する教室も増えつつある。今年に入り、ソフトバンクグループがSTEM教育事業への新規参入を発表し、STEM教育スクールの全国展開を目指している。

またNTTと吉本興業がクールジャパン機構から100億円の出資を得てスタートした教育コンテンツを世界展開するプラットフォーム「ラフ&ピース マザー」もSTEM教育含め、21世紀型の学びと遊びのコンテンツを展開することとなっている。本プラットフォームの主たるコンテンツとなるのがデジタル時代の創造力や表現力を育む学びの場を産官学連携で推進してきたCANVASである。CANVASは2002年の設立時よりプログラミング教育等をワークショップ形式で実践してきた。STEMの知識・スキルを活用しつくりながら学ぶカリキュラムを多く実践してきたが、2017年より「STEAM KIDS」プロジェクトを改めて立ち上げ、展示やワークショップを通じてSTEAMの普及に尽力している。

CANVASは想像力・創造力を育むことを最も重視しており、そのため、STEMにArtを組み合わせた「STEAM教育」を推進している。私が「STEMからSTEAMへ」を提唱したジョン・マエダ先生のもとで学び、後にCANVASを立ち上げたこともSTEAM教育を推進する所以である。

また、STEM教育の実践が盛り上がりを見せる中で、日本において学術的な視点で調査研究を行い、より効果的な教育実践につなげていくための組織が日本にはないことを踏まえて、2017年には日本STEM学会が立ち上がった。私も設立メンバー及び幹事として参画している。

執筆者:石戸奈々子

つづく

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STEM/STEAM教育とは Vol.6 日本の今
2019.12.24 公開
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