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CANVAS REPORT #03 STEM/STEAM教育とは Vol.5 世界の現状 

ここで世界の動きを簡単に見ておきたい。

STEMの動きを先導したのは米国である。STEMという言葉は、戦後間もなく設立され早くから科学教育の充実に取り組んできた国立科学財団(NSF)から生まれたとされている。当初はSMETと言われ、1990年代から科学リテラシー教育の底上げを目的に注目をされていたが、2001年に呼称をSTEMに変更。オバマ大統領以降、STEMとしてさらに注目を集めることとなる。

2009年4月オバマ大統領就任間もない頃、米国科学アカデミーの演説の中で、STEM教育の重要性を強調した(The White House,2016)。そして、「革新への教育」キャンペーンがスタートすることとなる。米国の国内総生産は17兆ドルを誇り、2位以下を大きく引き離した経済大国として君臨している。また、科学技術大国とも言える。自然科学系ノーベル賞受賞者のうち43%は米国が占める。オバマ政権は、今後も経済・科学技術大国として世界を牽引し続けるため、イノベーション戦略の一環でSTEM教育強化に重点を置いた。

米国がSTEM教育を推進する理由がいくつかある。まず、STEM人材不足だ。米国教育省の調査では2010年から2020年の間にSTEM関連職業が産業全体で14%増加することが見込まれていることを示している。それら労働人口予測とSTEM分野の学位取得者推移を踏まえ、STEM分野の学位取得者数が100万人不足すると予測されている。

Projected percentage increases in STEM Jobs 2010-2020
出典: education for global leadership U.S. Department of Education(https://www.ed.gov/stem)
https://www.ed.gov/sites/default/files/stem-overview.pdf

さらには、2012年に実施されたOECD生徒の学習到達度調査(PISA) において、アメリカの順位がOECD加盟国33カ国のうち、数学的リテラシーが27位、科学的リテラシーが20位と下位に留まっていることだ。

2013年にはSTEM教育5カ年計画を発表し、2020年までに初等・中等教育の優れたSTEM分野の教師を10万人養成、今後10年間でSTEM分野の大学卒業生を100万人増加等の具体的な目標を示し、年間30億ドルの予算を投じている。

さらに2015年にはSTEM教育法が成立。STEM教育の定義を拡張し、コンピュータサイエンスを含めることを明示した。公式に定義に含めたことはコンピュータサイエンス教育の重要性を示唆しているといえる。また、ミュージアムや放課後プログラムなど社会教育の中でのSTEM教育も重視されている。

その後、2017年にSTEM教育にアートやデザインを統合すること法改正がなされた。つまりSTEM法からSTEAM法に変化した。2013年に、MITメディアラボ副所長、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン学長を歴任したジョン・マエダは「STEMからSTEAMへ」を提唱してきたことが影響を与えている。

STEM教育を国家戦略とする動きは、米国のみならず世界中に広がった。

EUもまた、1990年代からEU全体レベルの科学教育の底上げを推進してきた。大学におけるSTEM関連分野の専攻や、STEM関連職の選択を奨励することを目的にSTEMアクションプランが立てられた。

EUにおけるSTEMプラットフォームであるEU STEM Coalitionを創設し、各国のSTEM教育のベストプラクティスの共有や産官学連携による加盟国のSTEM戦略構築の支援を行っている。

2004年、イギリス政府は「科学とイノベーションの関する投資フレームワーク2004-2014」を打ち出し、STEM教育に関する具体的目標を示す10カ年計画を示した。きっかけとなったのは、2002年に発表された「ロバーツ・レビュー」(Robert,2002)である。同報告書では、理数系の履修者数の減少を指摘するとともに、それに関する教育及び労働市場における課題について分析されている。2006年に作成されたSTEMプログラムレポートの中で、STEM推進組織が必要とされ、政策遂行の一環としてSTEMNETが立ち上がった。STEMNETでは、学校と連携をしながらSTEM教育に関する動機づけを行うことを目的に、STEM関連情報の発信、STEMクラブネットの支援、STEMアンバサダーの任命などを行い、全国的なSTEM教育推進を担っている。

動きはアジアでも同様である。

中国では、革新的な人材及び高度技術者の不足が中国の経済構造改革のボトルネックになっているという認識から、政府教育部がSTEM教育について2015年に初めて言及し、2016年には「教育信息化第13回5カ年計画」で科目横断学習(STEM教育)を促進する方針を正式に発表。2017年「義務教育小学校科学課程標準」改訂にあたって、STEM教育の実践を義務局課程内に盛り込むことが決定したという。上海ではSTEMに留まらない他分野連携の教育を「STEM+」と表現。「STEM+」教育研究センターを設立し、10年計画の実証研究プロジェクトに取り組んでいるという。深センでは、モノづくりに特化したSTEM教育としての創客教育を実施している(経済産業省,2018)。中国はAIの教育利用を国家戦略に据えている。東呉証券は、中国のSTEM市場規模は現在の約96億元から、5年後には520億元に拡大すると予想しているという(チャイナネット,2017)。

シンガポールでは、1965年独立以降、理数教育に力を入れてきたという。シンガポールのSTEM教育は、シンガポール最大の科学館であるサイエンスセンターが中心になって推進している。サイエンスセンターは、シンガポール政府の協力のもと、中学校の全ての生徒たちにSTEMプログラムを提供するための組織「STEM Inc.」を2014年に立ち上げた。そして小学校にもSTEM教育を試験的に導入する学校も出てきているという。シンガポールでは1997年に提起された「思考する学校、学ぶ国家」によって知識中心の学習から思考力の育成へと転換が図られ、探究型学習が推進されている。STEM教育においても教科ごとの縦割り学習ではなく、体験型学習が重視されており、社会全体での使われ方に即したカテゴリーの中で学習することになっている(文部科学省,2018)。

どの国の政策にも共通しているのは、STEM関連産業が、今後の国際競争力、経済的繁栄に密接であるという考え方だ。そしてまたSTEM産業の発展を見越したSTEM人材の育成が重要であるという認識も一致している。

執筆者:石戸奈々子

つづく

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