新しい技術の発明は社会を変化させてきた。18世紀末の蒸気機関車の発明は第一次産業革命を起こし、世界に機械化、工業化の波を起こした。19世紀後半には電力を用いた大量生産化をもたらす第2次産業革命が、そして20世紀後半には、コンピュータ技術の発達により自動化を促す第3次産業革命が起こった。そしていま、AI、IoT等の技術が牽引する第4次産業革命を迎えようとしている。これは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く第5の文明刷新 「Society5.0」でもあるとされている。
技術の進化は、これからを生きるに当たり必要とされる力に変化をもたらす。それに伴い、学びの場も変化せざるを得ない。これまでの教育は、より多くの知識を得ることに評価の力点が置かれていた。均一化された知識を身につけた人材が求められるキャッチアップ型の工業型社会には効果的だった。しかし、経済がグローバル化し、大量の情報が国境を越えて行き交う情報社会になると、たとえ多くの知識を得たとしても、それはすぐに陳腐化してしまう。社会の構造が大きく変化する中で、情報技術を使いこなし、世界中の多様な価値観の人と協働し、新しい価値を創造する力がいままで以上に必要となった。
30年間続いた「平成」は、情報技術の著しい発展によりより便利で快適な時代へと変貌を遂げた。第3次産業革命の時代だった。同時に、様々な秩序が崩れ、「いい学校」、「いい会社」という考えも持続性が失われた。すでに、国際間競争の激化や産業構造の変化は、新卒一括採用、年功序列、終身雇用制度といったこれまでの日本型雇用システムの継続を難しくしている。しかしながら、これまでは「ムーアの法則」に代表されるように、変化は早いが法則がある、つまり未来が見通せる時代であった。
令和への改元とともに第4次産業革命、Society5.0を迎えようとしている。これは、見通しのきかない、法則のない、変化に次ぐ変化の時代である。産業に留まらず社会・文化・暮らしの全場面に変革をもたらしうる技術発展を前に、世界中で、これからの新しい時代をより良く生き、より良い社会にしていくために求められる資質・能力、それを育む学習環境について議論が改めて進んでいる。OECDは、今の時代を「VUCA(Volatility『不安定』,Uncertainty『不確実』,Complexity『複雑』,Ambiguity『曖昧』)」の時代と表現し、その時代において必要とされるコンピテンシーとして「変革を起こす力」を掲げている。
私は、予測できない未来を生きる子どもたちに求められるのは「変化に対応する力」だと考える。それは、答えが決まった提示される問題を効率的に解く力だけではなく、大量の情報の中から必要な情報を取捨選択し、自ら課題を設計する力、生涯に渡り学習し続ける力であると言えよう。
そして、その変革をもたらすのは言うまでもなく科学技術である。15年に渡り、70カ国以上の世界の経営層を対象とした大規模調査「IBMグローバル経営層スタディ」によると、経営者は自社に影響を与える外部要因として2012年以降テクノロジーを第一位に挙げている(IBM,2016) 。
2019年の世界時価総額ランキングでは上位10位のうちIT・通信企業が6社入っている。それは、多くの仕事がなくなる一方で、新たな仕事が多数生まれることを意味する。これまでもなくなった職業の多くは新しい技術によって自動化され、代替されてきた。今後、あらゆる仕事が科学技術、特に先端IT技術とは無縁でいられない。
現に、私達はすでに、AI,ロボット,ドローン,ビッグデータ,フィンテック,エデュテック,アグリテックなどSTEM(Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとった言葉)に囲まれて生きている。全ての産業領域においてSTEM関連知識が必要とされる。そういった観点からSTEMの力はいままで以上に重要となる。
科学技術の発展は、社会及び経済発展の原動力であり、高度科学技術人材の育成と、すべての国民の基本的STEMリテラシーの向上は急務である。