STEM教育は従来の理数教育と何が違うのか? 世界中で議論が起こっているものの、STEM教育の定義も定まっていない。その状況はSTEM Identity Crisisとも指摘されている(Stephen Portz,2015)。まず、言葉が定まらない。STEAM(STEMにArtを追加)、STREAM(STEAMにRobotを追加)、STEMC(STEMにComputer Science/Codingを追加)など様々なSTEMの派生語が生まれている。
それ以上に議論を呼ぶのが「STEM教育」の内容が
・STEMに関連する教科を教える・学ぶこと
・STEMに関連する教科を横断的に、総合的に教える・学ぶこと
・論理的思考力、問題解決力、創造力など21世紀型スキルを育成すること
など捉え方が多様であることである。私はSociety5.0時代のSTEM教育はこの3つ全てを網羅する学びであると考える。
ツプロスら(2009)は、STEM教育の定義を下記のように定めている。
「STEM 教育とは、厳密な学術的概念と実世界と関連した授業が結びつき、生徒が科学・テクノロジー・工学・数学を、学校・地域・仕事・グローバル企業における文脈と関連付けて応用し、STEMリテラシーと新しい経済の中で競争できる能力が育成される、学びへの学際的なアプローチである。」
Bybee(2013)は、STEMリテラシーとは、STEM分野の特徴を理解し、STEMにより我々を取り巻く環境が形成されていることに関心を持ち、生活の中で自ら問いを認識するとともにエビデンスに基づいた課題解決を導くための知識・態度・技能を育み、建設的な市民としてSTEMに関連する社会課題に関わる意欲があることとしている。
そして、科学、技術、工学、数学の基本的な概念に基づきながらも、それら伝統的な学問領域を超え、学際的に学ばなくてはならないこと。また、単に知識を獲得するだけではなく、それらを活用し、STEMに関連した社会的課題に関して、理解し、エビデンスに基づいた議論をし、地域、国家、国際的な視点において市民としての義務を果たさなくてはならないとしている。
これらから、STEMの各学問分野の理解を深め、それら知識・技能を統合し活用する力を育み、課題解決力・批判的思考力・創造力といった21世紀型スキルを育むのがSociety5.0時代のSTEM教育であると言えよう。
それが故に、現在世界で議論されているSTEM教育とは、単に知識を獲得するだけではなく、「教科横断的・統合的な学び」であり、「課題解決型・プロジェクト型の学び」であり、「社会・世界と繋がった実践的な学び」という特徴が生まれてくる。しかし、この学び方の手法としての3つの特徴の意義は、すでに様々な教育学者、教育哲学者等によって語られており、決して新しい考え方ではない。これまでも重視されてきたことである。では、なぜ改めてこの教育・学習手法に注目が集まっているのか。それもまた情報技術の発展と密接に関係する。情報化社会を迎え、技術的な進展により理想として語られていたがコスト的に実現に困難があった学びが実現可能となったということである。情報技術の革新により大きく変容を遂げた社会が求める学びの変化がこれら学力観・学習観と一致し、そして情報技術の革新がその変化を可能とする。だからこそ改めてその価値が見直されているのである。