試行錯誤の絵本づくり
『さんかくサンタ』『アニマルアルファベットサーカス』
『いろいろバス』『へびのみこんだ なにのみこんだ?』
『さんかくサンタ』。これは僕、子どものころから、サンタって三角形だっていうイメージがあって。
小さい時から文字に色やビジュアルイメージを持っていらっしゃるんですね。
そうですね。なんかサンタって三角形だなってずっと思っていたんですよ。プレゼントが入ってる袋は丸、ツリーは三角、煙突は四角だなとずっと思っていました。丸、三角、四角がクリスマスだなって勝手に思っていたわけです。それで、クリスマスの絵本を作らないかって言われて、絵本作家だったら、クリスマスの本一冊くらいあってもいいよねと思い、三角、丸、四角をいかして『さんかくサンタ』を作った。さんかくサンタがやってきて、丸い袋をもってきて、四角い家に入って、三角のツリーがあって、と繰り返す絵本です。縛りを決めたからものすごくつらくなったのですが、何とかできましたね。『アニマルアルファベットサーカス』も気に入っています。これは作るにあたって、ちょっと雰囲気のある外国のサーカスをイメージした貼り絵で作りたくて、神保町を歩いて、古い雑誌をいっぱい探して、それを切って作りました。動物でアルファベットを伝える絵本はたくさんありますけど、これは見開きの左と右にくる動物たちがサーカスをするんです。
(『アニマルアルファベットサーカス』読み聞かせ。)
サーカスに出てくるものをリストアップして、見開きで動物たちが何をするのかを考えた。イグアナとジャガーで曲芸対決!とか。なぜサーカスというくくりを入れたのかというと、動物でアルファベットを伝える本はいっぱいあって、いろんな作家もやっている。でもそういう本はつまんない。なぜなら、それはアルファベットが悪い。ABCはいいんだけど、後半にいくと極端にボキャブラリーが少なくなる。辞書を見てもXYZとかほとんどなんもない。だから動物でアルファベットの本を作ろうとすると、後半に行くとマニアックな動物だけになってすごくつまらない。ABCはすごいけど。
そうですよね。ABCはたくさんいる。
Xはクビワカモメしかいない。だからキツネ(FOX)にしている本も多いですね。Qもウズラ(Quail)にしたかったんじゃなくて、ウズラしかなかったから。それでウズラを登場させるために、ジャグリングが必要になったんです。ウズラの卵でウサギ(Rabbit)がジャグリングしている絵を描かないといけなかったから。Vもなかなかない。この絵本では、ユニコーン(Unicorn)とハゲワシ(Vulture)にした。かつらをつけたハゲワシおじさんを紹介するユニコーンを描きました。あとはX。僕はピエロがどうしてもほしかったので、ピエロはもうキツネ(FOX)しかない。で、イノシシ(Wild boar)がキツネに蹴っ飛ばされて、イノシシが怒って大暴れ。最後はゼブラがいるわけですよ。Yがいない代わりに、ヤク(Yak)とシマウマ(Zebra)でサーカスのフィナーレを何とかしてやんなきゃいけない。もうずっと悩んで、ヤクとシマウマが何をやればいいんだって。悩んで結果これですね。ヤクとシマウマ、並んでダンスっていう。
ここに行きつくわけですね。
貼り絵とかも、一体ずつ作っているんです。サーカスという縛りを入れることによって、このマニアックな動物がおもしろくなる。そういう構成で作った本です。
『いろいろバス』も気に入っています。お世話になってる編集者の方が乗り物の本作りませんか?と。でも、一年、二年相談しても、アイディアが出ない。そうこうするうちに、編集者の方が妊娠したんです。10か月後に生まれるというから、出産の日に合わせて出版することにしました。結局、印刷立ち合いの日に出産されたんですけどどね。そうして完成した『いろいろバス』は、いろいろなバスがやってくる絵本です。(『いろいろバス』の読み聞かせ)
最後に、一度も出てこなかった運転手さんたちが「ご乗車ありがとうございました」って言って終わるんです。ずっとここばかり見ている子がたくさんいますね。
不思議ですもんね。
この絵本では、つくっている時に、青で小さいものが、ぜんぜんないことに気がついたんですね。青というと、海とか空になってしまう。生活の中で自然な青いものがないんですよ。イルカはいいなと思ったんですが、イルカは青でなく黒ですよね。色の絵本だから青もほしかったんですけど、青は特殊な色なんだと気がついたので、あきらめて黒にした。後はシルエットが良いものを描いています。
このシルエットで思い出したんですけど、細長いヘビの絵本が今日はないですね。
あれ、なんで今日ないんだろう。
私、あの本も好きだったのに。
ないですね。忘れたんですかね。『へびのみこんだ なにのみこんだ?』もちょっと病気ってくらいこだわった本です。横長で長い本です。本屋さんで邪魔になる本を作りたかった。最初がそこだった。なんか邪魔みたいな。本屋さんにたまに行くと本当にあれは邪魔でやめましたとか言われるんですよ。邪魔な本で横長って言ったら蛇かなって。
そこから始めてるんですね。
最初の発想は、くだらないんですよ。お話は、黒いヘビが闇から現れて、欲望とともに飲んでいくんですね。友だちがほしいからっていって子どもを飲んだり、大好きだからって言ってガールフレンドを飲んだり、大きくなりたいと言って風景を飲んだり。どんどん闇の蛇が拡大していって、最後は光がほしくて太陽飲み込むわけです。それで飲み込んだ後に、完全に闇に戻る。闇から現れたものが結局どんどん成長していく度に闇に戻っていく。本自体が闇の塊じゃなきゃだめだ、と思い、カバーをとると完全に真っ黒の本にしました。白いカバーとると、ただの黒い本です。印刷の黒のインクにも、ものすごくこだわりました。
それを忘れちゃった。
すみません、忘れちゃった。製本も三回くらいやり直して。