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こどもの“つくる”を応援する キャンバスマガジン

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「デジタルえほん」の今とこれから#02

21世紀を生きるこどもたちのために必要な新しいコミュニケーションや表現を生みだす、こどもたちのための新しい遊びと学びの道具「デジタルえほん」。
「デジタルえほんの今とこれから」では、デジタルえほんクリエイターをはじめとした、「デジタルえほん」にかかわるおとなたちへのインタビューやレポートを通じて、「デジタルえほん」とこどもたちの今とこれからをご紹介します。

「Toca Boca」を訪問したとき※、例えばキモかわいいとかユニセックスとか、そのキャラクターや世界観について決まりごとがあったのですが、「Sago Mini」にもそうしたルールはありますか?
※2010年にスウェーデンで設立されたこども向けのデジタルトイを製作する開発集団。CANVASマガジン#01“「デジタルえほん」の今とこれから”にてToca Boca本社訪問レポートを掲載しています。

「Toca Boca」はアプリを作るとき まったく新しいキャラクターを一から考えるので、 私たちとは少し勝手が違います。「Sago Mini」では、すべてのアプリに同じ動物を起用しています。 動物のキャラクターなので、 肌の色や性別、洋服など心配しなくてもいいのです。 かわいく親しみやすいこと、 そしてユニセックスであることを大事にしているので 動物や怪獣やロボットなど、 こどもたちが大好きなものをキャラクターにしています。

「SagoMini」ではアプリを制作される際、どのような体制で行っているのですか?

3クリエイティブチームに4人、内、2人はテクニカルアーティストです。 私がスケッチをしたものにもとづいて2人のテクニカルアーティストがデジタル作品に仕上げます。そしてアニメーターもいます。

作品の物語はだれが制作されているのですか?

いつも共同作業です。アプリによっては私が考えることもありますし、プレイデザイナーが考えることも。でも、いつもチーム全員で制作します。

ひとつの作品につき10人ぐらいで、期間は4カ月~半年くらいかかります。とても長い時間です。たくさんのプログラマーが必要なので、実はクリエイティブチームは開発チームより人数が少ないです。クリエイティブと開発、2つがそろい、初めてアプリが誕生します。

キャラクターがかわいいだけでなくこどもたちが夢中になるところが特徴だな、と思うのですが、アプリはどのようなコンセプトでつくられていますか?

私にとっていちばん重要なことは、保護者からの信頼を得ることです。 保護者から信頼を勝ち取るためにも、アプリ内に広告は一切ありませんし、こどもたちが自由に安全に遊べる仕様にしています。
こどもたちを利用して利益を得るのは簡単です。こどもがアプリ内で不要に課金をしてしまった、という話をよく耳にしますが、私たちのアプリでは一切ありません。利益のことを考えたら、そのほうがいいのかもしれませんが、私たちにはこの信条を、アプリをつくる上でとても大切にしています。
お客さんやこどもたちに敬意を示す、ということなのかもしれません。新しいテクノロジーに対して抵抗があったり、こどもにとって悪いものだと考える人は少なくありません。 でも「Sago Mini」では、“テクノロジーは大人がちゃんとコントロールさえすれば、とても素晴らしいものになりうる”と考えます。
正しく使えばこどもたちにとてもポジティブな影響を与えることができるのです。

2才でも99才でも、だれでも楽しめるようなアプリをつくりたいと思っています。私たちのアプリには説明文やボタン、ナビゲーションが一切ありません。直感的に、簡単にだれでも遊べるようにしています。 このようなシンプルなデザインに仕上げるのは、実はとても難しいことなのです。

とても共感します。
「SagoMini」のメインターゲットの年齢層は 未就学児の2才から5才くらいのこどもたちですよね。 ターゲットの年齢層を上げたアプリをつくる予定はありますか?

当初はありました。 ただ「Sago Mini」に夢中になりすぎて 今はあまり考えていません。 もしかしたら、将来つくるかもしれませんが。
私たちの新しいプロジェクトは、おもちゃづくりです。 今はぬいぐるみや遊具セットなどをつくっています。 3人のおもちゃデザイナーと その他2人のスタッフの体制で進めています。

わっ、おもちゃいいですね!かわいい!おもちゃづくりはいつからされているのですか?おもちゃとアプリを連動させていく予定はありますか?

約1年ぐらい前から取り組んでいます。
おもちゃとアプリの連動は、もしかしたら将来的に検討するかもしれませんが、今は他のことに専念したいと考えています。アプリを知らなくても、子どもたちが楽しめるようなおもちゃを作りたいと思っていますがアプリとおもちゃが連動した、質の高いおもちゃはまだ見たことがありません。
石戸さんはデジタルアプリと連動した、いいおもちゃをご存じですか?

日本のおもちゃ会社が最近始めていますが、売り上げとしてはこれからの市場ですね。

そうですよね。電子書籍みたいなものですよね。電子書籍で成功することはすごく難しいと思うんです。 紙の本とは全くの別物ですから。アプリがあって、本があって、電子書籍はその間に位置していて。
同様にデジタルえほんは、おもちゃとアプリのどちらかではなくて、おもちゃでありアプリでもあると思います。

「Sago Mini」のアプリは世界中で多くダウンロードされていると思うのですがなにか特別なプロモーション活動をされていますか?

私は営業を担当していないので多くは語れませんが、世界中で約1000万のダウンロードがあるそうです。新しいアプリを公開する際、多くの人に知ってもらうため、1週間無料で提供したりすることはあります。ご存知だとは思いますが、ネット社会では皆、無料でアプリを欲しがります。だれもアプリにお金を使いたがらないんですよね。
そして、「SagoMini」には4人の営業部隊がいますが、アプリのマーケティングは、みんな手探りの中、試行錯誤しています。 私はいろいろな国を訪問しますが、いつも「どうすればアプリで収益を確保できるのか」 と聞かれます。正直なところ私もわかりませんが、“作品がいいと自然と売れる”ということは言えると思います。ただそれだけではなく、その作品にたくさんのスポットライトをあてることも重要ですね。
数年前、「Toca Boca」の社長がオフィスに訪れたとき、“美しい作品を制作し、ものすごく大きなスポットライトをあてて、みんなの目をひくことが大切だ”とおっしゃっていました。
あとは地域のお祭りや学校で小さなイベントを開くこともあります。CANVASさんが行うようなイベントに似ているかもしれません。

新しいものやことを広めるためには、 地道な活動が必要ですね。 学校とは幼稚園のことですか?

そうですね、幼稚園だったり小学校低学年のこどもたちであったり。こどもたちと話す機会があれば行きます。「SagoMini」でソーシャルメディアを担当しているコミュニティマネージャーは、ときどきこどもたちに絵本の読み聞かせをしに行っています。彼はイラストレーターでもあるんですけどね。
「Sago Mini」では社員はみんな複数のわらじをはいています。テクニカルアーティストが彫刻家だったり、プログラマーが音楽家だったり。
さまざまな特技を持った人が集まっているからこそ、ひとつの深みのある作品を制作できるのだと思います。

つづく

第1話:「Sago Mini」とは
2017.02.01 公開
第2話:デジタルえほんがめざすもの
2017.02.08 公開
第3話:「Sago Mini」ができるまで
2017.02.15 公開
第4話:こどもとテクノロジーと教育と
2017.02.22 公開
第5話:〈番外編〉アーロンさんとこどもたちとの質疑応答
2017.02.27 公開