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こどもの“つくる”を応援する キャンバスマガジン

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山添 joseph 勇 YAMAZOE joseph ISAMU

深沢アート研究所代表・美術家・こども造形研究者

世田谷区深沢に拠点を構えるアートユニット。

現代美術の作品発表と、アートを基軸とした”ワークショップ”や”緑化活動”を国内外で展開。

関連サイト

深沢アート研究所

「つくる」場をつくるために必要なこと

今のように、こども向けのワークショップという活動があまり普及していなかった20年前。深沢アート研究所の 山添 joseph 勇さんの活動は、そこからはじまります。造形に軸を置いた山添さんのワークショップは、CANVAS のキッズクリエイティブ研究所や、放課後クラブ・学童での活動ほうかごクリエイティブプロジェクトでも大人気ワークショップのひとつ。

普段山添さんは、世田谷区にある造形教室でほぼ毎日ワークショップを行いながら、企業や団体、学校と連携した様々なプロジェクトも手がけています。山添さんのワークショップで使うものは、洗濯バサミ、アルミホイル、紙コップ・・などなど、その多くは身のまわりにあるものばかり。さまざまな素材との距離を近づけ、ときにはつくるための材料からつくるよう促す。その時間の中には、こどもの「つくる」気持ちを引き出す関わり方や振る舞い、素材の選び方など、山添さんのこれまでの蓄積がぎゅっと詰まっています。

「今まで同じワークショップを1度もしたことがない」ほど多様な体験のアイデアを生み出してきた山添さんの考える、こども向け造形ワークショップへの姿勢はどのようなものなのでしょうか。この20年の活動をふりかえり、改めて「ワークショップ」について考えるべく、CANVASでトークイベントを開催しました。聞き手は、CANVAS プロデューサーの熊井です。

 

    ー そもそも「つくる」ってなんだろう?

つくる「気持ち」をつくること、つくる行為に集中してとりくむ時間と環境をいかにつくるか、山添さんがワークショップに対して大切にしている根本になるお考えの一端を伺ってきましたが、こどもにつくる体験を提供するといっても「つくる」ってなんだろう、どのように捉えればいんだろう、というところにぶつかりま

基本的には、なにかわかりやすい作品をつくりあげること自体が大事ではないと思う。発見する・工夫する・経験する。その時間が大事なんだと思う。

たぶん、「遊び」と「つくる」の境界線があるんだと思っていて、大縄跳びとかかけっことかゲームとか、ただ「遊ぶ」のではなくって、新しい大縄跳びをつくるとかならすごくいいなと思う。ワークショップ中も、「遊び」に走る瞬間があれば、いろいろな手で「つくる」に戻す。

山添さんは今、大学で授業を行っていたりもするじゃないですか。そのへんのことは学生さんたちにどう伝えるんですか?

ちゃんとね、僕もスライドとかつくるんだけど、例えば「つくる」という言葉に着目して考えるきっかけを与えたりね。

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「作る」の意味は、ケーキを作るとか巣を作るとか、具体的にものをこしらえることを指す。「創る」、これは新しいものをつくりあげるという意味だよね。

「作品」という概念自体あいまいになってきますが、アイデアをつくることだって「つくる」ですし、友達やまわりと協力してできること・できないことを補ってみんなでなにかを「つくる」こともつくるですね。言葉に敏感になりながら思考を深めていくきっかけをつくっていくという。

うん。時間をかけてコツコツ建造物とかをつくることは「造る」って言ったり、いろんな形のつくるがあるよね。

    ー つくる場を構成するものとは?

さまざまな定義がなされているワークショップですが、そもそものワークショップの最小単位ってなんだろう、っていうこともよく考えます。「こどもだけのミュージアム」なんかは、究極的には大人がいらない。安全管理とかはもちろん必要ですけど。

「場を与える」っていうことがなにかっていうことだよね。それは多分、環境づくり・声かけ・素材・テーマ・空間、あと「頑張らせない」ことかなと思ってる。「頑張らせない」っていうのは、今までも話してきたとおり、「頑張る」と美しくなくなっちゃうから。

「環境」っていうのは例えば、とにかく大量の種類のやすりを用意してつくる「やすってすべらす」ってプログラムがあるけど、それは環境づくりとして、壁にたくさんのやすりを貼っておく。そうすることで、「やすりたい」「つくりたい」って気持ちをつくる。

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    -やすってすべらす
60番~2000番まで、たくさんの種類があるやすりを用意。
どのやすりを使うかによって木のなめらかさが変化する。

このプログラムもいいですよね。いろいろ実験する子もいたりして。山添さんのワークショップのひとつの特徴って素材のおもしろさというか、身のまわりのものが変わって見えることだったり、なんでも道具にも素材にもなるって感覚を得られることだったりする気もしますが、普段から素材の選び方とかは重視してますか?

やっぱり100円ショップとかコンビニはよく行くよね。あとは、工業製品とかも面白いよ。サランラップとか、アメリカ製のものとか、通販とかもよく見てる。素材だけでワークショップにもなるし、素材だけじゃなくって「テーマ」でワンクッション置くのも大事だし。

    ー「良い」おとなの関わり方ってなんだろう?

山添さんの考える「良いワークショップ」とか「悪いワークショップ」ってあるんですか?

こどもも、ファシリテーターも、気持ちよく終わることができればそれがいいワークショップなんじゃないかなって思う。逆に悪いワークショップは、ファシリテーターだけ満足して、こどもがなにか「させられた」で終わっちゃったものだと思ってる。

「あー今日は盛り上がらなかったなー」ってワークショップとかありますか?

うん、ていうか、そういうものも僕の中では「良いワークショップ」。何しようとしたかよくわからなかったけど、「もやっ」とするワークショップは、それはそれでエネルギーが出たってことだと思うよ。逆に「盛り上がらない」恐怖感によって「何かさせちゃう」のが悪いワークショップ。あとぼく、たいてい反省してる(笑)

なるほど…。ワークショップでのこどもたちへのおとなの関わり方について、研修会などでよく聞かれることもありますけど、どこで誰にどんな目的で、どんなワークショップするかでファシリテーションのあり方も変わりますよね。

うん。なにが「うまく」て「適切」かっていう唯一の正解はない。僕は「悪いワークショップにしないようにしよう、しないようにしよう」っていうことをいつも考えてワークショップを通してこどもに接してる。一般的には、もしかしたらほめてあげたほうがいいのかもしれないけど、物を作るってことに関していえば、「もやもや」ってとして全然 OK だと思う。

そうですよね。「もやもや」から深い考察がうまれたり、新しい何かが生まれることもある気がします。それに、大人が葛藤している背中をこどもにみせていくのも否定するものではないかと思います。

もやもやすることで、考えて、悩んで、その繰り返しだよね。

山添さんは美術作家というお立場でワークショップをされているかと思いますが、今ワークショップという言葉の中でも、様々な立場の方々が、こどもたちとの接点をもって自分の知見を元に活動を進めていくことが増えてきているかと思います。社会教育といわれるような学校外での学びの機会が増えてきている、ということだと思います。僕としては、そのような社会になったらいいなと願っているのですが、様々な実践者の方の「もやもや」としての気づきや悩みも含めて、想いや方法論などを伺い知ることができる場をもっとつくっていけたらと考えています。今日は、あらためて山添さんとじっくり話すことができてよかったです。

いやぼくも、貴重な時間をありがとうございました。

今後ともいろいろよろしくお願いします!

 

yamazoe
第1話:「ワークショップ」って、なんだろう?
2016.07.01 公開
第2話:ワークショップ中、どこを見てる?
2016.07.07 公開
第3話:ワークショップの「あと」まで考える
2016.07.12 公開
第4話:ワークショップのひろがり
2016.07.14 公開
第6話:「つくる」場をつくるために必要なこと
2016.07.20 公開
第5話:ワークショップを「つくる」
2016.07.20 公開
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山添 joseph 勇 YAMAZOE joseph ISAMU

深沢アート研究所代表・美術家・こども造形研究者

世田谷区深沢に拠点を構えるアートユニット。

現代美術の作品発表と、アートを基軸とした”ワークショップ”や”緑化活動”を国内外で展開。

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