CANVAS

こどもの“つくる”を応援する キャンバスマガジン

日比野拓 TAKU HIBINO

日比野設計+幼児の城

1972年神奈川県鎌倉市生まれ。
株式会社日比野設計代表取締役社長 幼児施設統括責任者を務める。幼児施設に特化したブランドYouji no Shiroを立ち上げ、関わった幼稚園、保育園、 こども園、こども関連施設に関する設計は350を超え、更にヨーロッパやアジアでの計画も進行している。またデザイン以外にも、ワークショップや講演会、国内外の子どものデザイン視察ツアーの企画などを行い、子どもを中心としてデザインや環境の大切さを啓蒙し続けている。

関連サイト

日比野設計 幼児の城 WEBサイト

http://www.e-ensha.com/

 

Youji no Shiro オフィシャルInstagram

https://www.instagram.com/youji_no_shiro/

こどもメディアラボ「こどもと建築」
ゲスト:日比野設計+幼児の城 日比野拓さん

恵比寿 amu にて開催されている、こどもとメディアの関係を総合的に考え、新しい価値を生みだすおとなの学び舎『こどもメディアラボ』。2014年より、メディアで活躍するさまざまなクリエイターを講師(ゲスト)として招き、それぞれの分野のプロフェッショナルな話を伺ってきました。

今回のキャンバスマガジンでは、過去の数あるトークイベントの中から、幼児施設に特化した設計事務所「日比野設計+幼児の城」の日比野拓さんをゲストに招いて開催した回のトークアーカイブをお届けします。

「日比野設計+幼児の城」の日比野拓さんと、NPO法人CANVAS理事長、株式会社デジタルえほん代表取締役、慶應義塾大学准教授、amu代表石戸奈々子氏。形は違えど、子どもを支えてきたお二人が子どもと建築のこれからについて深く語りあいました。ぜひ、お楽しみください。

園舎を建てるにあたり、園児を中心に考えてきたと思いますが、保育士さんの立場を考えて工夫をしたことはありますか?

保育士さんの立場からというのは、なかなか難しいです。子どものほうの優先順を上げるので。ただ、今のご意見は、園舎設計の議論で必ず出る話なんです。オーナーと打合せしていると、保育士の目線がだんだん入ってきます。例えば“いやそんなにガラスが多いと保育士の掃除が大変ですから”とか“穴ぐらみたいな所があると、保育士の目が届かなくなって、なにかあったら大変ですから”というふうになっていきます。バランスの問題なのかもしれませんが、極端なことをいうと、ガラスが多いと掃除が大変だから、ガラスをなくしていってしまうと、暗くなっていきます。死角を無くしていくと、だんだんただのオープンスペースになって、逆行していってしまう。設計段階では、いつも「大人は我慢できるので、少し我慢してください」といいます。「覚悟してください」と提案しています。子どもには決定権はないのだから、大人が我慢すれば、子どもたちが楽しく、いろいろなことを学ぶ空間が出来るはずだから、大人が我慢しなさいと。

そこは議論として難しそうですね。入り口のところに大きな黒板がある園をデザインされていましたよね。子どもたちがそこに絵を描くことができるわけですが、保護者の方たちもまた、その黒板を見て一日の様子が分かるようになっている。地域の方がお茶をしてくるという事例も先ほどありましたが、保護者や地域の大人とのコミュニケーションのための、大人もコミットできる空間というのを意識されているのかなとお話を伺っていて思いましたがいかがでしょうか?

石戸さんがおっしゃっていたように、大人にとっても気持ち良いとか空間は確かに意識しているかもしれませんね。

園舎をデザインするにあたり、子ども目線で設計されると思いますが、今日みせていただいた園舎は、大人が見てもドキドキ・ワクワクしてしまいました。既存の保育園は、日比野さんが作られたものに比べてあまりドキドキ・ワクワクしないなとも感じました。同じ子ども目線でも、ドキドキ・ワクワクに差があるのはなぜでしょうか?

それはすごい難しいと思うのですが、好き嫌いと一緒で、僕はドキドキするけど、他の人はしないかもしれない。この間同じような質問がスロベキアでもありました。「子どもが楽しいだろうと言うことを設計している」と言ったら、「なんであんたがそんなことが分かるんだ」というんです。子どもじゃないじゃない、40歳過ぎているでしょ、と。僕は、今でも高いところからの方が眺めが良さそうだな、と思うし、もしかしたら、皆さんがいないなら、高いところから飛び降りているかもしれない、という感覚を持っているんですね。段差をトントン飛んでみたいな、出来るかなという思いを今も持っています。その境界線をデザインで表現しているだけなんですね。ただ、楽しいか楽しくないかは、大人がどのぐらい覚悟するかしないかという問題な気がします。提案は議論を経る中で、最後には“やっぱり危ないな、止めておこう”といったふうに、だんだん大人しくなってしまうんです。それが極端になっていくと普通になってしまう。そこのせめぎ合いのような気がします。

子ども心を失わないことが非常に大事ということですね。

園舎に屋根のモチーフに紐がいっぱいあって、子どもが遊べる文脈をつくられているなと感じました。子どもが遊ぶきっかけや仕掛けを作りこんでいる理由は?そしてそれらの共通項目はなんでしょうか?

僕が子どもだからという理由に尽きると思います。自分が小さいころの体験がいまでも強く残っているんです。僕は、生まれは鎌倉で、育ちは藤沢市です。当時の藤沢は田舎で、それこそ僕の家の前はススキ野原で、木苺が生っていて、近くではカブト虫やクワガタがいっぱい捕れたんですね。田んぼの横の用水路にいけば、蛇もいたし、蛙もザリガニもいたんです。そんなところで育ったので、ススキ野原に入って行くと、葉っぱで切れて血がでたり、道をつくっていってミステリーサークルみたいなもんを作って、穴を掘ってみたり。そういうスケール感がなんとなく今の自分のデザインに寄与しているんだと思います。

共通して楽しめることをあえて言葉でいうと、穴ぐらの例のように“もぐる”と、段差の例のように“跳ぶ”とか、あえて遠回りをするとか、そう言う要素が日比野さんの空間には多いですよね。そして、子どもたちは大好きですよね。

中国で連携している事務所の若い担当者がプレゼンテーションをしてきたんですね。一所懸命やっているのだが、遊園地のような子ども園だったので、全部ダメ出ししています。何でダメかというと、遊園地というのは、お金を払ってジェットコースターに乗って座れば自動的に回ってくれて楽しませてくれる。そして、ハイ終わりとなります。すなわち、子どもは何かをするわけではなく、自動的に答えを出してくれます。その感覚に近くて子どもにこのように遊びなさいと結論を出してしまっている提案だったんです。何回もダメ出ししている理由は、結論は出さないでくれということです。キッカケを与えることは、ものすごく大事だけど、結論は絶対にださないでくれ、と。結論は子どもたちが出すべきです。最終的には、中国の人たちはギブアップして、できないので、あんたやってくれという笑い話のようなことになっちゃたんです。

子どもたちは、レール敷かなくても、動機付けがあれば、あとは、自ら遊びと学びを作りだしていきます。私たちのワークショップもそのように設計していますが、そういうことを、日常を通してなさっているのが素晴らしいですね。日比野さんの動画、初めに建築の映像があって、途中から、命が吹き込まれたように、音楽が切りかわって、子どもたちの笑顔があるのがいいですね。毎度毎度うるうるしながら見てしまいます。また、40年前に手掛けた園舎を、40年後にもう一度依頼が来るということは、40年間大事に使って、つくってくださった方に感謝をして使い続けたんだろうな、と。それだけ愛される園舎を作る仕事をなさることに感銘を受けました。もっとお話をお伺いしたいのですが、残念ながらお時間となりましたので、本日はありがとうございました。

つづく

第2話:「原風景・原体験」を大切に
2016.04.28 公開
第3話:「物の素材」「自然」を感じられる環境
2016.05.02 公開
第4話:怪我は成長のもと
2016.05.06 公開
第5話:段差のある楽しい空間
2016.05.09 公開
第6話:アナログな環境は創意工夫の場
2016.05.12 公開
第7話:気持ちいいと感じられる「食」と「トイレ」の空間づくり
2016.05.16 公開
第8話:子どもたちの育つ環境をトータルプロデュ―ス
2016.05.19 公開
第9話:日本から見る世界、世界から見る日本
2016.05.23 公開
第10話:子どもたちの育つ理想的な場
2016.05.26 公開
第1話:大事にしているキーワードは「ワクワク・ドキドキ」
2016.05.29 公開
第11話:子ども心を失わないこと
2016.05.30 公開
日比野拓 TAKU HIBINO

日比野設計+幼児の城

日比野拓 TAKU HIBINO
日比野設計+幼児の城

1972年神奈川県鎌倉市生まれ。
株式会社日比野設計代表取締役社長 幼児施設統括責任者を務める。幼児施設に特化したブランドYouji no Shiroを立ち上げ、関わった幼稚園、保育園、 こども園、こども関連施設に関する設計は350を超え、更にヨーロッパやアジアでの計画も進行している。またデザイン以外にも、ワークショップや講演会、国内外の子どものデザイン視察ツアーの企画などを行い、子どもを中心としてデザインや環境の大切さを啓蒙し続けている。

主な受賞歴として、
・2015年/「小浜こども園」「第一幼稚園」2015 グッドデザイン賞受賞
・2015年/「はなぞのこどもえん」「小浜こども園」「第一幼稚園」他 9プロジェクトが 第9回キッズデザイン賞受賞。
・2014年/「中央こども園+CHUOCAFE」「フレンド金沢文庫保育園」「幼児の城壁紙」の3プロジェク トで第8回キッズデザイン賞受賞。
・2013年 /「にっさとの森保育園」で第19回 草加市まちなみ 景観賞建物景観部門受賞、「笛吹市石和第五保育所」で2013山梨建築文化 奨励賞など

著書は「愛される園舎のつくりかた」「世界でたったひとつの園舎づくり」「じぶんの学びの見つけ方(共著)」など

関連サイト

日比野設計 幼児の城 WEBサイト

http://www.e-ensha.com/

 

Youji no Shiro オフィシャルInstagram

https://www.instagram.com/youji_no_shiro/