聞き手の石戸です。 日比野さん、お話ありがとうございました。 これからは、質疑応答タイムになります。
日比野さんは、ご自身のことを建築家と言いたくない、建築をデザインはしているものの、建築を通じて子どもたちの育つ環境全部をデザインしたいんだと仰っていたのがとても印象に残っています。園をつくるにあたり、どの園もこういう園をつくりたいというコンセプトはお持ちなのでしょうか?それとも日比野さんがコンセプトから携わって園舎をつくっていくのでしょうか?
2タイプあります。最初に明確にコンセプトをお持ちの方もいます。そういう方は、古い施設がマッチしていないだけなので、僕らがマッチするようにデザインすれば良いのです。比較的簡単に滑り出して設計できます。しかし、大半は、自分たちが何をやっているかが分かっていない場合が多いです。僕らは、担当者がつくと何日か園に張り付く保育体験をし、一日のカリキュラムと動きをみます。デザインとして形として見えるようにしてあげることが役目の場合もあります。だからこそ僕は、建築家といわれることが嫌で、建築家とは自分たちがもっているアイデアをどうだー!と見せ付けるところがあると思います。でも、僕はそうではなく、園のやりたいことや、園の方向性を、僕らが建築というものを使いながら、よりやり易くし、より動きやすくしてあげることを大事にしています。
だからこそ、園舎だけではなく園のロゴやウェブサイトなども含めてトータルでデザインされていらっしゃるのですね。
はい。園を表現するのは建物だけではないと思っていまして、園から発信されるものが統一されたデザインで、お父さん、お母さん、地域住民の方、園に係る方々に対して、届いてくことが大事だと思っています。ですから、園のロゴマークやウェブサイトや名刺や制服など、表にでていくものを同じ方向性でデザインしていくようにしています。
地域に開かれた園舎のお話がありましたが、園と街並みとの調和も大事にされていらっしゃいますよね?
僕たちは建築をアートだと思っていないし、形で勝負しようとは思ってもいません。むしろ、できるだけ街並みに溶け込んでほしいと思っています。一方で、幼稚園や保育園は、子どもに迎合するようなデザインで溢れている。キャラクターものを付けたり、子どもが喜ぶからという想定で、ピンクとか派手な色合いを使いがち。でも、やはり街並みを意識しなくてはいけない、街に付加価値をつけていかなければならないと思っています。非日常ではないので、遊園地のような違和感のある物を建てるのではなくて、街並みに溶け込むようにしています。
感性を刺激する仕掛けをいくつか紹介していただきましたが、他にも事例はありますか?またそういう仕掛けは、どういったところから発想しているのでしょうか?
横浜の園の事例があります。オーナーが、ヤマハの販売店だったということもあり、小さい頃から楽器にふれて音に慣れ親しんでほしいという思いをもつ方でした。しかし、その時にやっていたことは単に楽器を置いていただけでした。でも、それでは面白くない。そこで、床にブーブークッションのようなものを入れたり、壁に楽器を仕込んだりして、建築と楽器を一体化させていきました。また、インターフォンもさきほど紹介した伝声管にしました。大人用のインターフォンの下で、子どもが「もしもし」と話せるようになっています。今の技術のインターフォンの下に、かつての伝吹管があって、中の友達と話せるのです。いま、音は機械的にエフェクトできます。でも半分ぐらい塞ぐと音が高くなるといった工夫を子どもたちがすることで、音の原点に寄り添いたいと思いました。